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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1578号 判決 1980年8月07日

控訴人(附帯被控訴人) 大貫和 外一名

被控訴人(附帯控訴人) 飯塚庄助

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  本件附帯控訴に基づき、原判決主文第三項の一部(後記認容部分に関する請求を棄却した部分)を取消す。

控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、金一二四二万五六一一円及びこれに対する昭和五二年六月一六日から支払ずみまで年一割五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの連帯負担とする。

四  本判決主文第二項は、被控訴人(附帯控訴人)が金二〇〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴人らは、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の右部分の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴につき主文第一項同旨の判決を、附帯控訴として主文第二、三項同旨の判決並びに仮執行宣言を求め、控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)大貫は、附帯控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、主張につき、左のとおり附加し、証拠につき、控訴人らにおいて当審証人井関年四郎の証言を援用した外は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二枚目裏一一行目に「同日」とあるのを「同年三月一〇日」と、三枚目裏六行目に「同年五月末日」とあるのを「昭和五二年五月末日」と、四枚目裏三行目に「被告」とあるのを「同被告」とそれぞれ訂正する。)。

(被控訴人の主張)

1  被控訴人の控訴人大貫に対する昭和四九年八月三〇日成立の金一三〇〇万円の債権のうち金一一〇〇万円は、被控訴人が同日控訴人大貫に対して売渡した茨城県東茨城郡茨城町城之内字大道東一四八番イ山林四六四一平方メートル及び同所同番ロ原野六〇八平方メートルの売買代金一一〇〇万円の債権を以て消費貸借の目的としたものである。

2  本件貸付金の遅延損害金の利率を原判示のとおり利息と同率の年一割五分として計算しても、元金二三〇〇万円と内金一三〇〇万円に対する昭和四九年八月三〇日から昭和五二年六月一五日までの年一割五分の割合による利息・遅延損害金及び内金一〇〇〇万円に対する昭和四九年九月二七日から昭和五二年六月一五日までの前同様の割合による利息・遅延損害金の合計額は三二五二万六〇二六円であり、他方、本件各土地の昭和五二年六月一五日当時の価額は二〇一〇万〇四一五円であるから、後者が前者を下廻つていることは明らかである。

3  ところで、請求原因2項記載の代物弁済の予約(以下「本件代物弁済予約」という。)の合意の趣旨は、本件各土地の価額の限度において本件消費貸借上の債権を担保するということであり、右土地の価額が債権額を下廻つた場合には、その差額はなお債権者が債務者に対し残債権として請求できるという約定であつた。従つて、被控訴人は、本件代物弁済予約完結の意思表示をなした後においても、控訴人大貫に対して前記債権合計額と物件価額の差額である金一二四二万五六一一円の支払を請求することができるものというべきである。

4  仮に右主張が容れられないとしても、本件代物弁済予約は、債権担保の目的でなされたものであつて、その実質は代物弁済の形式を借りて目的不動産より債権の優先弁済を受けようとするものであるから、その解釈にあたつては、その法的外形にかかわらず、実質に即して物的担保制度として把握し、一方で担保目的に適合するようにその効力を確保し、他方で担保の目的を越える効力を否定するようにすべきことは、判例・通説の認めるところである。現時の判例・通説は、担保に供された不動産の価額が被担保債権額を上廻る場合には、担保権者は目的不動産の価額から被担保債権額を差し引いた残額につき清算義務を負うものとして、担保権者が被担保債権額を越えて利得することを制限しているのであるが、右の場合とは逆に目的不動産の価額が被担保債権額を下廻る場合には、被担保債権は目的不動産の価額の限度において消滅し、超過分は残債権として存続するものと解するのが正当である。即ち、代物弁済予約を仮登記担保として把握し、担保権者に清算義務を認めて、その効力を債権担保の枠にとどめた以上、それはもはや本来の代物弁済としての効力は失つたというべきであるから、目的不動産の価額が被担保債権額に満たない場合にも債権全額の消滅をきたす効力があると解すべきではない。

5  よつて、原判決中控訴人大貫に対し前記差額金の支払を求める請求を棄却した部分は失当であるので、被控訴人は、附帯控訴により、該部分の一部(後記請求部分の限度で)の取消と同控訴人に対し右差額金一二四二万五六一一円及びこれに対する本件代物弁済予約完結の意思表示をなした日の翌日である昭和五二年六月一六日から支払ずみまで利息制限法所定の制限利率の範囲内である年一割五分の割合による遅延損害金の支払とを求める。

(控訴人らの主張)

1 被控訴人の前記主張1項の事実は否認する。

2 同2項中本件消費貸借における元本と利息・遅延損害金の合計額が金三二五二万六〇二六円であることは争う。貸金の利息計算の起算日は貸付の日の翌日であり、本件の場合、内金一三〇〇万円については昭和四九年八月三一日から、内金一〇〇〇万円については同年九月二八日から、それぞれ昭和五二年六月一五日までの年一割五分の割合による利息・遅延損害金を計算すると九五一万六五七四円であり、これと元本合計二三〇〇万円とを合算すると三二五一万六五七四円である。

3 同3項及び4項は争う。

理由

一  本件控訴について

被控訴人の本訴請求中原判決の認容した部分については、当裁判所も原審と同様その理由があり、これを認容すべきものと判断する。そして、その理由は原判決理由中の第一の一、二及び第二に説示されているとおりであるから、これを引用する(但し、原判決五枚目裏九行目の「証人井関年四郎の証言」の次に「(原審及び当審)」を、同一一行目の「鑑定の結果」の次に「に弁論の全趣旨」をそれぞれ加え、六枚目表九行目の「四八のイ」を「一四八番イ」と、同一一行目の「右代金一一〇〇万円」から六枚目裏二行目の「形をとつた)し、」までの記載を、「同日右売買代金一一〇〇万円の債権を以て同額の消費貸借の目的とする旨の準消費貸借契約を締結するとともに、別に現金二〇〇万円を控訴人大貫に貸与し、」と、七枚目表七行目の「接渉」を「折衝」と、八枚目表一、二行目に「三二五七万九四五一円」とあるのを「別紙計算書のとおり、三二五二万六〇二七円(円未満切捨。なお、利息は消費貸借または準消費貸借のなされた当日から発生すると解すべきである。)」と、同一二行目に「保存の仮登記」とあるのを「保全の仮登記」とそれぞれ改め、八枚目表四行目の「右認定に反する」の次に「証人井関年四郎の証言(当審)及び」を加える。)。

以上のとおり、原判決中本訴請求を認容した部分は相当であつて、本件控訴は理由がない。

二  本件附帯控訴について

被控訴人は、控訴人大貫に対して、本件貸金債権額と本件各土地の価額との差額金の支払を請求するので、以下にその当否について判断する。

前段認定(原判決引用)の事実によれば、本件代物弁済予約は、代物弁済の形式をとつているものの、前認定の貸金債権担保の目的のために締結されたもので、その実質は担保権と同視すべきものであるということができ、かつ目的不動産である本件各土地につき所有権移転請求権保全の仮登記を経由しているのであるから、右はいわゆる仮登記担保契約である。ところで、仮登記担保に該当する代物弁済予約にあつては、名は代物弁済予約であつても、その実質は担保権と同視すべきものであるから、予約完結権が行使され、目的不動産の所有権が債権者に移転するに至るとともに当然に被担保債権全額の消滅をきたすものではなく、目的不動産の価額が被担保債権額を上廻る場合には、被担保債権全額が消滅し、債権者において前者から後者を差し引いた残額につき清算義務を負うことになるが、目的不動産の価額が被担保債権額を下廻る場合には、反対の特約がない限り、被担保債権は目的不動産の価額の限度においてのみ消滅し、その差額は残債権としてなお存続するものと解するのが相当である。原判決は、本件の場合、債権者(被控訴人)において担保方法として抵当権ではなく代物弁済予約を選択したのであるから、代物弁済の性質上債権額が目的不動産の価額を越えていてもその不足額を請求することは許されないとするが、仮登記担保に該当する代物弁済予約の効力は債権担保の枠にとどめられ、もはや本来の代物弁済としての効力を有しないのであるから、本来の代物弁済に弁済と同一の効力即ち債権の全部消滅の効力があることを根拠に原判示のように解するのは相当でないといわなければならない。

本件代物弁済予約の完結した昭和五二年六月一五日当時における本件貸金債権の利息及び遅延損害金を含む合計額が三二五二万六〇二七円であり、本件各土地の価額が二〇一〇万〇四一五円であつて、前者が後者を一二四二万五六一二円上廻つていることは前段認定(原判決引用)のとおりであるから、反対の特約の存在の認められない本件にあつては、被控訴人は、代物弁済の予約完結により本件各土地の所有権を取得した後においても、債務者たる控訴人大貫に対し残債権として右差額金の支払を請求し得るものというべきである。

してみれば、右差額の範囲内である一二四二万五六一一円及びこれに対する昭和五二年六月一六日以降支払ずみまで年一割五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で原判決主文第三項の取消を求める被控訴人の附帯控訴は理由があり、原判決は右の限度で取消を免れない。

三  むすび

以上の次第で、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、本件附帯控訴は理由があるので、これに基づき原判決主文第三項を前記不服の限度で取消し、控訴人大貫に対し一二四二万五六一一円及びこれに対する昭和五二年六月一六日以降支払ずみまで年一割五分の割合による遅延損害金の支払を命ずることとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条前段、八九条、九二条但書、九三条一項但書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉田洋一 蓑田速夫 松岡登)

(別紙)計算書<省略>

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